プーランク(1899 -
1963)は、20世紀を代表するフランスの作曲家であり、ミヨーやオネゲルらと共に「フランス6人組」の一人に数えられる。彼の名前を聞くと、《フルート・ソナタ》や《六重奏曲》などの室内楽作品を思い浮かべる方も多いだろう。実際、彼の室内楽作品には傑作が多く、管弦楽作品として有名な《2台のピアノのための協奏曲》やバレエ音楽《牝鹿》も、個々の楽器の響きが大切にされ、室内楽のように繊細な印象を与える。
バレエ組曲《模範的な動物たち》も、決して例外ではない。時は1940年、彼はラ・フォンテーヌの『寓話』から6つの標題を抜粋し、オープニングの「夜明け」・フィナーレの「昼の食事」を加えて8曲構成のバレエ音楽を構想した。それを元にし、更に6曲構成に縮めたのがこの作品である。作曲の経緯は、当時のフランスの政治状況と密接に関係している。ドイツ軍への降伏以降、多くの商業芸術は検閲を免れることが出来なかった。そのような状況下、彼はこの作品を用いて「フランス国民の愛国心を煽らず、かと言ってドイツ軍に迎合するわけでもない」という意思を上手く表現した。隠された政治的な意図と音楽的な完成度の高さを両立させる高度な技法は、プーランクがこの時点で既に極めて成熟した作曲家であったことを示している。
当時、ヨーロッパからアメリカに渡る作曲家が後を絶たない中、プーランク自身もアメリカでの演奏を念頭に置いていたという。異国の聴衆にアピールする狙いがあったのか、この曲の管弦楽法は幾分豪華な響きを持つ。一方、骨組みにあたる和声の部分では、常にフランスで培われたスタンスを失っていない。
ストーリーは「夜明け」を起点に動物たちの織りなす紙芝居に始まり、「恋するライオン」~「二羽の雄鶏」で社会を投影し、「昼の食事」で幕を閉じるという構成である。
以下、個々の曲について簡単に解説しておこう。
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I. 夜明け
朧気な輪郭が主に木管楽器によって呈示される。中間部のトランペットによるメロディは、作品全体を貫く重要な主題である。やがて、曲は荘厳な主和音とともに収束し「真の開幕」を迎える。
人間の娘に惚れて結婚を申し出たライオンは、娘の父親に次のような提案を言い渡される。「娘を傷つけないよう、まずその爪を切り、牙を抜かせてくれないか。」盲目的に恋するライオンはこれを受け入れ、爪と牙を失ってしまう。父親はこれ幸いと、無防備と化したライオンを仕留めるのであった。
音楽は豊かな色彩と快活なテンポで、人の娘に恋をしたライオンの盲目的な情熱を鮮明に描き出す。冒頭の主題は様々な楽器に受け渡され、絶えず異なる表情を見せる。最後の和音は解決せず、続く楽章を予感させる。
金にも困らず、女を選べるゆとりを得た白髪交じりの男は、結婚を考える。そこで、彼に言い寄る二人の女性が現れた。一人は若く、もう一人は年増であった。実際、彼は二人ともに心惹かれていた。ところが、年増の方は自分と見合うように彼の頭から次々と黒髪を抜いていき、若い方は同じ理由で白髪を抜いていった。結果、彼の頭は見事に禿げ上がってしまう。自分を道具としか思わない二人の女性に対し、彼はとうとう愛想を尽かし、結婚を断念するのであった。
軽快な行進曲風の流れが弦楽器によって作られ、管楽器との掛け合いが曲を支配する。二人の女性のキャラクターの違いが活き活きとした音楽で表現されている。
人は至る所で死に抗う哀れな生き物である。沢山の枝を背負って森を歩く一人の老人は、遂に人生の苦労に耐えかねて倒れてしまい、「死んでしまいたい」と口にする。それに呼応するように死神が登場し、老人に「ご用件は何ですか」と尋ねる。しかし死神を前にして老人は死を願わず、「枝を運ぶのを手伝ってくれないか。そうすればもう少し楽になれる」と答える。
プーランクは敬虔なカトリックの信者でもあり、彼自身の音楽は時として宗教とともにあった。この曲の前半に紡がれる典礼聖歌はまさにカトリックの世界観を象徴する。例えばフランソワ・ミレーによる絵画『死と木こり』では死神が「精霊」として描かれている。同じくプーランク自身もこのテーマに対して宗教的な美を感じ取ったのであろう。オーボエによって呈示される美しい主題は、木こりと死神の間に交わされる会話を淡々と描く。
一羽の雌鳥を巡って突き合う二羽の雄鶏は、姫を巡って決闘する青年たちを表す。やがて勝敗が決し、一羽は勝利の栄光に讃えられ意気揚々、もう一羽は敗北の悲しみに沈む。ところが、これを他所で見ていたハゲタカが、鼻高々な勝者を亡き者にしてしまう。敗北し、奇しくも生き残った雄鶏は再び雌鳥を口説きにかかる。こうして同じことが繰り返され、争うことの虚しさと滑稽さが描かれる。
弦楽器による動機の連なり、紡がれる全ての主題が騒がしい鶏の様子を想起させる。描かれるのは文字通り「二羽の雄鶏」の突き合いである。第三者であるハゲタカの邪魔によって、両者とも中途半端に態勢を崩されていき、閉幕を迎える。
VI. 昼の食事
プロローグである夜明けに登場した主題が、楽器を変えて繰り返される。今度はやや落ち着きを持って、ゆったりと曲全体が締めくくられる。