ENSEMBLE FREE EAST

第8回演奏会

具象・寓意・抽象―想像のグラデーション

今回、私たちは音楽でカツオドリを描きます。カツオドリ(Gannet)とはカツオドリ目カツオドリ科カツオドリ属に分類される海鳥です。作曲家・川上統さんは、カツオドリが獲物を狙って急降下し突撃する様や水中を飛ぶように泳ぎ魚を捕らえていく様からインスピレーションを受け、新作《Gannets' Carnival》を作曲されました。

一方、プーランクの《模範的な動物たち》は、動物を擬人化し人々に教訓を与える寓話を基にした、バレエのための音楽です。そして、ブラームスの音楽は「絶対音楽」と呼ばれ、一切の具体的なものを排除し、言葉では表現し得ない心のありようを音で表現したと言われています。

21世紀、20世紀、19世紀。日本、フランス、ドイツ。皆様には、この演奏会で全く違うタイプの音楽をお聴きいただきます。人間の想像力と音楽の持つ底知れない表現力の可能性を感じていただければ幸いです。

アンサンブル・フリーEAST 代表 浅野 亮介


演奏会詳細

2017年8月26日(土)14:00 開演
第8回演奏会
  • プーランク バレエ組曲《模範的な動物たち》
  • 川上 統 《Gannets' Carnival》 委嘱作品/世界初演
  • ブラームス 交響曲第3番

* 指揮:浅野 亮介
杉並公会堂 大ホール
入場料 1,000円(全席自由)

Artists

指揮:浅野 亮介

神戸大学国際文化学部を経て同大学院博士課程前期課程修了。大学院では美学理論、作曲技法を学び、シェーンベルクを中心とした20世紀初頭のドイツ音楽を軸に、古典派からロマン派まで幅広く研究対象とする。

2000年に関西一円からメンバーを集め、アマチュア・オーケストラ、アンサンブル・フリーを設立。これまでに国内の優秀なソリストと数多く共演、マーラーの《交響曲第3番》、《大地の歌》、ストラヴィンスキーの《春の祭典》など計25回の大規模な演奏会を開催し、成功を収める。第10回以降、アンサンブル・フリーの出演者は毎回100名を超えている。

2013年に関東地方にアンサンブル・フリーEASTを設立。新進気鋭の若い作曲家に作品を委嘱するなど、従来のクラシック音楽の傑作を紹介するとともに、新しい音楽の開拓と発展にも力を注いでいる。

note

作曲:川上 統

1979年、東京生まれ、逗子育ち。東京音楽大学音楽学部音楽科卒業、同大学院修了。作曲を湯浅譲二、池辺晋一郎、細川俊夫、久田典子、山本裕之の各氏に師事。

2003年、第20回現音新人作曲賞受賞。2009、2012、2015年に武生国際音楽祭招待作曲家として参加。2010年、武生からの交換作曲家としてフランスのロワイヨモン作曲セミナーに参加。2011年、HIROSHIMA HAPPY NEW EAR Xにて作品《軍鶏》が演奏される。2014年、just composed in YOKOHAMA委嘱作品作曲家にて《鼻行類について》が演奏される。同年、韓国の大邱国際現代音楽祭に招待され、作品《TILT》が演奏される。同年、メキシコのセルバンティーノ音楽祭にて、next mushroom promotionにより作品《ラナラナンキュラス》が演奏される。

作曲作品は150曲以上にのぼり、国内外で演奏される。楽譜はショットミュージック株式会社より出版されている。Ensemble Contemporary α、ROSCO、voxhumana、next mushroom promotion、混声合唱団「空」、東京現音計画、リベルテマンドリオンオーケストラなどの様々なアンサンブル、演奏家から委嘱初演がなされている。

「Tokyo Ensemble Factory」musical adviser「Ensemble Contemporary α」作曲メンバー。作曲作品は生物の名が多い。現在、国立音楽大学、東京成徳短期大学、東京音楽大学付属高等学校で非常勤講師を務める。チェロ、ピアノや打楽器を用いた即興演奏も多く行う。

特別インタビュー

楽曲解説

プーランク バレエ組曲《模範的な動物たち》

プーランク(1899 - 1963)は、20世紀を代表するフランスの作曲家であり、ミヨーやオネゲルらと共に「フランス6人組」の一人に数えられる。彼の名前を聞くと、《フルート・ソナタ》や《六重奏曲》などの室内楽作品を思い浮かべる方も多いだろう。実際、彼の室内楽作品には傑作が多く、管弦楽作品として有名な《2台のピアノのための協奏曲》やバレエ音楽《牝鹿》も、個々の楽器の響きが大切にされ、室内楽のように繊細な印象を与える。

バレエ組曲《模範的な動物たち》も、決して例外ではない。時は1940年、彼はラ・フォンテーヌの『寓話』から6つの標題を抜粋し、オープニングの「夜明け」・フィナーレの「昼の食事」を加えて8曲構成のバレエ音楽を構想した。それを元にし、更に6曲構成に縮めたのがこの作品である。作曲の経緯は、当時のフランスの政治状況と密接に関係している。ドイツ軍への降伏以降、多くの商業芸術は検閲を免れることが出来なかった。そのような状況下、彼はこの作品を用いて「フランス国民の愛国心を煽らず、かと言ってドイツ軍に迎合するわけでもない」という意思を上手く表現した。隠された政治的な意図と音楽的な完成度の高さを両立させる高度な技法は、プーランクがこの時点で既に極めて成熟した作曲家であったことを示している。

当時、ヨーロッパからアメリカに渡る作曲家が後を絶たない中、プーランク自身もアメリカでの演奏を念頭に置いていたという。異国の聴衆にアピールする狙いがあったのか、この曲の管弦楽法は幾分豪華な響きを持つ。一方、骨組みにあたる和声の部分では、常にフランスで培われたスタンスを失っていない。

ストーリーは「夜明け」を起点に動物たちの織りなす紙芝居に始まり、「恋するライオン」~「二羽の雄鶏」で社会を投影し、「昼の食事」で幕を閉じるという構成である。

以下、個々の曲について簡単に解説しておこう。

※各見出しをクリック/タップすると、挿絵をご覧いただけます(外部サイトを開きます)。

I. 夜明け

朧気な輪郭が主に木管楽器によって呈示される。中間部のトランペットによるメロディは、作品全体を貫く重要な主題である。やがて、曲は荘厳な主和音とともに収束し「真の開幕」を迎える。

II. 恋するライオン

人間の娘に惚れて結婚を申し出たライオンは、娘の父親に次のような提案を言い渡される。「娘を傷つけないよう、まずその爪を切り、牙を抜かせてくれないか。」盲目的に恋するライオンはこれを受け入れ、爪と牙を失ってしまう。父親はこれ幸いと、無防備と化したライオンを仕留めるのであった。

音楽は豊かな色彩と快活なテンポで、人の娘に恋をしたライオンの盲目的な情熱を鮮明に描き出す。冒頭の主題は様々な楽器に受け渡され、絶えず異なる表情を見せる。最後の和音は解決せず、続く楽章を予感させる。

III. 中年男と二人の愛人

金にも困らず、女を選べるゆとりを得た白髪交じりの男は、結婚を考える。そこで、彼に言い寄る二人の女性が現れた。一人は若く、もう一人は年増であった。実際、彼は二人ともに心惹かれていた。ところが、年増の方は自分と見合うように彼の頭から次々と黒髪を抜いていき、若い方は同じ理由で白髪を抜いていった。結果、彼の頭は見事に禿げ上がってしまう。自分を道具としか思わない二人の女性に対し、彼はとうとう愛想を尽かし、結婚を断念するのであった。

軽快な行進曲風の流れが弦楽器によって作られ、管楽器との掛け合いが曲を支配する。二人の女性のキャラクターの違いが活き活きとした音楽で表現されている。

IV. 死と木こり

人は至る所で死に抗う哀れな生き物である。沢山の枝を背負って森を歩く一人の老人は、遂に人生の苦労に耐えかねて倒れてしまい、「死んでしまいたい」と口にする。それに呼応するように死神が登場し、老人に「ご用件は何ですか」と尋ねる。しかし死神を前にして老人は死を願わず、「枝を運ぶのを手伝ってくれないか。そうすればもう少し楽になれる」と答える。

プーランクは敬虔なカトリックの信者でもあり、彼自身の音楽は時として宗教とともにあった。この曲の前半に紡がれる典礼聖歌はまさにカトリックの世界観を象徴する。例えばフランソワ・ミレーによる絵画『死と木こり』では死神が「精霊」として描かれている。同じくプーランク自身もこのテーマに対して宗教的な美を感じ取ったのであろう。オーボエによって呈示される美しい主題は、木こりと死神の間に交わされる会話を淡々と描く。

V. 二羽の雄鶏

一羽の雌鳥を巡って突き合う二羽の雄鶏は、姫を巡って決闘する青年たちを表す。やがて勝敗が決し、一羽は勝利の栄光に讃えられ意気揚々、もう一羽は敗北の悲しみに沈む。ところが、これを他所で見ていたハゲタカが、鼻高々な勝者を亡き者にしてしまう。敗北し、奇しくも生き残った雄鶏は再び雌鳥を口説きにかかる。こうして同じことが繰り返され、争うことの虚しさと滑稽さが描かれる。

弦楽器による動機の連なり、紡がれる全ての主題が騒がしい鶏の様子を想起させる。描かれるのは文字通り「二羽の雄鶏」の突き合いである。第三者であるハゲタカの邪魔によって、両者とも中途半端に態勢を崩されていき、閉幕を迎える。

VI. 昼の食事

プロローグである夜明けに登場した主題が、楽器を変えて繰り返される。今度はやや落ち着きを持って、ゆったりと曲全体が締めくくられる。

川上 統 《Gannets' Carnival》 委嘱作品/世界初演
カツオドリ(シロカツオドリ)

「ガネッツ・カーニヴァル」と読むこのタイトルはガネット(カツオドリ)の祭典という意味合いです。これまで150曲以上作ってきた作曲作品の中の八割程を占めるのは生物に関するタイトルでありまして、今回のこの作品もそのような類いに入ります。

何故生物の名前が多いのかという事については、私が生物やその固有種としての名前が好きであるという事もありますが、生物の多様な種類からなる個々の姿や生態が数多のようにある事に憧れを持っている事から、そのような「個」を持った曲であってほしいという願望を持ってそのような名前をつける事が多いです。従って、実はその全ての曲が対象の生物の生態や形態の模写を目的としているわけではなく、そのイメージの個性との対置によって多面的に捉えたり、曲を聞く際の楽しみ方のヒントになったり、何よりも生物の如く生き生きとしてその音楽が現出してほしいという事が最大の目的であります。

さて今回の曲はカツオドリという鳥達がテーマになっている曲ですが、まずこの鳥について少しお話ししましょう。まずGannetという鳥を正確に限定すると実は「シロカツオドリ属」という目の鋭い白い体色のカツオドリの仲間になります。このシロカツオドリ達は所謂海鳥であり、海上を大群で飛び回ります。そして捕食対象である魚を捕らえる様が圧巻であり、海中にダイブしていくのです。それも一羽ずつ飛び込んでいくわけではなく、大群として矢の嵐のように海に次々と突き刺さっていきます。舞台は海中に移ってもなかなかの壮観であり、まるで海の中を飛ぶように魚を追っていくこの鳥達の群れの動きはとても神秘的です。

オーケストラを書くという事を思い浮かべた時に、実は何パターンかの生物のイメージがありまして、一個体として充分に大きい生物か、あるいは群像劇としての大きさのある生物か、の二択もありましたが今回はとても勢いのあるオーケストラのアンサンブルフリーイーストさんの委嘱という事もあり、可能な限り強烈な印象のある群像劇が良いのではと考え、このカツオドリのインパクトのある生態を表現対象としました。

作品としてはかなり直接的でありまして、大まかに説明致しますと、上空で羽ばたきながら集合していくカツオドリの様子から、海にダイブしていく様子、そして海中を泳ぎ回り次第に様々な海中風景を群像として目の当たりにするという様子、の三部分がありまして、海中の風景は抽象的ながら最も長い局面です。ここに関しては特に自由に想像を膨らませていただきたいところです。全編が速いテンポの状態で各楽器が飛び回り泳ぎ回り突っ込みまくり、追いかけ回すイメージです。

アンサンブルフリーイーストの皆様に御礼を申し上げると共に、お聴きいただいた皆様に心より感謝申し上げます。


カツオドリの動画はこちらからご覧いただけます(Youtube)。

ブラームス 交響曲第3番 ヘ長調 作品90

ブラームス(1833 - 1897)は、19世紀ドイツの作曲家であり、多くの人は子守歌に馴染みがあるだろう。彼が生涯を通じて書いた4曲の交響曲は、いずれもロマン派作品の鑑として名を馳せる。長い年月をかけて書かれ緻密に構成された第1番、その第1番の重圧から解放されたかのように明朗な第2番に続き、この第3番は1883年、ブラームスが50歳の時にヴィースバーデンという温泉保養地で書かれた。この作品もまた、これまで書かれた2つの交響曲とは性格が異なる。もしそれを言葉にするのであれば、「郷愁的」と言えるかもしれない。ブラームスはこの時期に自然を讃える歌曲を多く書いたという背景もあり、自然を描写するかのような陰影に富んだ色彩感覚も、この交響曲の特徴と言えるだろう。

また、どの楽章も前奏を伴わず、全体が40分という短い時間に収まるのも特異的である。その中で描ける限りのものを描いた結果、音楽的には凝縮され、濃厚な内容を持つに至った一方、曲全体を貫く素朴で簡明な表現は、聴く者を混乱させることなく、美しい旋律で魅了する。

第1楽章(Allegro con brio)は、管楽器の快活な呼び声(F-As-F)から始まるソナタである。ヘ長調と真っ向から対立するこの主題は、曲全体に大きな揺らぎと色彩を与える。一瞬で人物にズームインするカメラの如く、弦楽器によって第1主題が呈示されるが、そのまま転調を経てクラリネットによる第2主題に受け継がれる。随所に現れる自在な転調により、この楽章は特に陰影に富んだ印象を与える。

第2楽章(Andante)は、クラリネットによる主題(C-D-H-C-)から始まるが、穏やかな牧歌は次第に寂寥感を伴い、聴く者を作曲家の創りだした世界へと誘う。中間部のクラリネットとファゴットによる主題は幻想の極致であり、蜃気楼の中で夢見るような心地をしばし味わわせてくれる。この主題は、第4楽章の冒頭にも隠れた形で登場する。幻想は長くは続かず、やがて穏やかな散歩道の景色が蘇る。

第3楽章(Poco allegretto)は、前楽章とは打って変わって懐古的な雰囲気を持った楽章である。チェロによる第1主題(C-D-Es-)によって音楽の扉は開かれ、回想の始まりが告げられる。当惑するような中間部の木管楽器の主題は儚い弦楽器の旋律へと受け渡され、この楽章に束の間の夢の如く甘く切ない印象を与える。

第4楽章(Allegro)では、ファゴットと弦楽器による第1主題(C-H-C-Des-C-Des-)が「Sotto Voce(囁くような声で)」で奏された後、強烈な一撃が聴く者を現実へと引き戻す。一方、三連符の第2主題は明るく快活で、第1主題との鮮やかなコントラストを作り出す。ブラームスはこの性格の異なる2つの主題を対決的に用いることなく、寧ろ上手く入れ替わらせることによってベートーヴェン的な葛藤や苦悩との戦いとは違った答えを導き出している。華々しい勝利ではなく、穏やかな静謐さの中で曲は締めくくられる。

スペシャルインタビュー

作曲家 川上統さんと指揮者 浅野亮介のスペシャルインタビューをお読みいただけます。

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