作曲家 辻田 絢菜 X 指揮者 浅野亮介

作曲家 辻田 絢菜 アンサンブルフリーインタビュー画像

Special Interview

浅野
作曲家を目指したのは、いつ頃ですか?
辻田
中学校2年生の時です。母がピアノを、父が作曲をしており、身近に音楽がある生活でしたので、東京都立芸術高等学校への進学を考えました。
浅野
まさにサラブレッドですね!
辻田
いえいえ、全然そんなことはないんです。私はピアノの練習が嫌いで、訓練をほとんどしていませんでした。
吹奏楽部でサックスを吹いていましたが、腕前もそれほどでなく、「作曲ならまだいけるかも…」と思い、父に和声やソルフェージュを教えてもらいながら、なんとか高校に滑り込んだ感じなんですよ(笑)
浅野
お父さんが作曲家なんて、羨ましいですよ。他には影響を受けた作曲家や音楽家はいますか?
辻田
私はポップスが好きで、子どものころからよく聴いていました。アニメもよく見ていまして、オープニングやエンディングの音楽にも惹かれましたね。
浅野
辻田さんのアニメ好きは有名ですよね(笑) どんなアニメが好きだったんですか?
辻田
音楽面で気になったアニメは《地球少女アルジュナ》ですね。ご存知ですか? 2001年1月から火曜の18時~18時30分の枠で放映されていました。
浅野
いや…知らないですね…。どんなところが面白かったんです?
辻田
内容も面白かったんですが、普通、アニメって決まった映像や音楽がエンディングに流れるじゃないですか。でも、《アルジュナ》では毎回なにかしら変化があって、特に音楽が変わった回は、内容も印象的だったので、強く記憶に残っています。
この音楽を担当したのが菅野よう子さん、歌手が坂本真綾さんで、それ以来、特に菅野さんの音楽は大好きになりました。
浅野
《アルジュナ》以外にも気になったアニメはありましたか?
辻田
《るろうに剣心》の音楽も気になりました。中学校3年生くらいの時だったかな…
浅野
《るろうに剣心》は僕も知ってますよ!ジャンプで読みました!
辻田
いえ、マンガではなく、TVアニメでもなく、私が好きなのは若干大人向けに作られた「OVA(オリジナルビデオアニメーション)版」です。ここ、重要です。
辻田 絢菜
浅野
…。アニメ以外で趣味はありますか? 休日はどんなことをして息抜きをしていますか?
辻田
「休日」という概念に乏しい職業ではありますが…美術館に行くのも好きですし、動物園も好きですね!
浅野
動物、可愛いですよね!僕も動物園は好きです。キリンとかゾウとか。
辻田
爬虫類も好きです!最近行ったiZooやバナナワニ園は楽しかったです。iZooのゴキブリタワーを見た時は興奮しました!
浅野
ゴキ…?
辻田
気持ち悪いんですけど、それがまたいい!もちろんウサギとかネコとかワンちゃんとか、女子が好きそうな可愛い動物も大好きですよ!!!
浅野
えーと、音楽に話を戻しましょう!作曲家として、どんな時に喜びを感じますか?
辻田
自分で満足できる作品を生み出せた時ですね。と言っても「作品全体に満足する」ということは中々ないのですが、一部でも気に入ったものが作曲できれば、とても嬉しいです。
それを演奏者や聴いて下さる方に楽しんでもらえたら更に嬉しいですね。楽しんでもらうこと…それが私にとって一番の喜びです。
それから、作曲をやっていて嬉しかった瞬間で印象的なのは、東京藝術大学のモーニングコンサートの演目に自分の作品が選ばれた時、日本音楽コンクールに作品がノミネートされた時です。
浅野
やはり自分の作品が評価されると嬉しいですよね。
辻田
それもありますが、特にモーニングコンサートは、初めて書いたオーケストラ作品が音になる機会を頂けたという嬉しさと衝撃がものすごかったです。
自分の書いたものが音になるというのは、作曲家にとって特別な瞬間なんです。
辻田 絢菜
浅野
では逆に、作曲家として辛い時は、どんな時でしょうか?
辻田
上手く作曲が進まない時です。
一部でも満足できる部分があればいいのですが、そうでなければ、「自分すら気に入るところのない作品を他の人に聴いてもらって満足していただけるわけがない」と思いますし、それで締切が迫ってくると、とても焦ります。
浅野
「締切」は作曲家の皆さん、口をそろえて「辛い」と言いますね。
辻田
直接音楽とは関係ありませんが、祖父が亡くなった時がとても辛かったです。18歳の時ですが、「明日からもうお話できないんだ…」と思うと、とても悲しく、この時はじめて「死」というものを実感しました。
浅野
作曲家の体験したことは、音楽に少なからず反映されますよね。今回の委嘱作品《QUN》にも、辻田さんの体験が反映されていますか?
辻田
そうですね。私が「キュンとする瞬間」を音楽にしてみました。
浅野
《QUN》は「Hope」から始まって、「Throbbing (doki-doki)」「Painful」「Stimulation」「Tension」「Delight」「Longing」「dying of cuteness(キュン死)」の8つの部分から構成されていますよね。
辻田
「キュン」という感情にも色々な種類があるので、それを音で表現してみたんです。
浅野
団員の言葉を借りると「キュンの展覧会」ですね(笑)
辻田
はい(笑) やはり最後に最も強烈な「キュン死」を置きましたが、各々の部分が時系列的に繋がっていくというよりは、それぞれの「QUN」をそれぞれに楽しんでいただければと思います。
辻田 絢菜
浅野
どんなところに力を入れて作曲しましたか?
辻田
「キラキラ感」を出すことですね。ピアノが主体となる部分が多いのですが、ピアニストはチェレスタも担当します。この楽器の入れ替え、それから普通のオーケストラには入っていない玩具の楽器の使用など…独創的な作品となるように作曲しました。
浅野
作曲中、苦労したことはありますか?
辻田
大学内で公募していたオーケストラのための作品を書き、その直後に大学院の修了作品でオーケストラを書き、そして、この《QUN》の委嘱がありました。連続で3つも大きな編成の曲を書くというのが大変でした。
浅野
ご自身は、最近キュンな体験はありましたか?
辻田
ありましたよ!《QUN》を書き終えた後なのですが、家の近所を散歩していた時です。ちょうど梅の季節で、神社に綺麗な梅の花が咲いていました。写真を撮ろうと境内に入ると、梅の木の下に小さなお地蔵さんが立っていました。そのお地蔵さんから梅の木のほうに視線を上げると、梅の木の上に猫がいたんです。視線を上げた瞬間に、猫を認識するよりも早く視線と視線がぶつかり合いました。
この瞬間が、強烈にキュンでした…
浅野
これはまた可愛い体験ですねー!神社、梅の花、お地蔵さん、猫、そして辻田さん。全てが絵になりますね…! 作曲家としては、これからどんな活動をしていくつもりですか?
辻田
これからのことは、まだ定まっていないですね。オーケストラの作品を書くのも好きですし、ポピュラーな作品を書くのも好きです。自分に巡ってくるチャンスを一つ一つ大切にして、どのジャンルにあっても、自分らしい表現を追求していきたいです。
浅野
それでは最後に、8月27日の演奏会を聴きに来て下さる方にメッセージをお願いします。
辻田
私が音楽を学び始めた頃、「現代音楽」はほとんど知りませんでしたし、なんとなく「難しい」「怖い」という印象しかありませんでした。現在、「現代音楽」にどれだけの理解があるのか分かりませんが、《QUN》を通して少しでもイメージを変えられたら…音楽的知識の有無に関わらず、誰もが楽しんで鑑賞することができる現代の作品もあることを少しでもお伝え出来ればと思っています。
音楽を聴いて「キュン」としてくださいましたら幸いです。
ご来場を心からお待ちしております!
辻田 絢菜

辻田さん、ありがとうございました!