作曲家 逢坂 裕 X 指揮者 浅野亮介

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Special Interview

浅野
作曲家の逢坂裕さんに、2泊3日の合宿にフル参加していただきました。お忙しい所ありがとうございます。それではインタビューよろしくお願いします!
逢坂
インタビュー楽しみにしていました。こちらこそよろしくお願いします!

作曲家としてのきっかけ

浅野
作曲家を目指したのはいつごろですか?
逢坂
作曲をし始めたのは高校3年生ごろですが、作曲家を目指したのは27歳の頃です。
浅野
どんな高校生だったんですか?
逢坂
高校生の頃は久石譲さんや坂本龍一さんが好きで、ピアノで弾いたりしてました。なかでも、久石譲さんのもののけ姫の衝撃は本当にすごかったです。テレビCMで何度も曲がかかって好きになって、映画を見に行って感動しました。さっそくピアノ譜を買って、なんでこういうのが作れるんだろうと分析してましたね。そのピアノ譜にコードも書いてあったので、そのときから和声で考える癖がずっと続いています。他の久石譲さんの作品や坂本龍一さんの音楽のコードを見て分析したりしていました。
浅野
その後27歳の頃に作曲家を目指したんですね。
逢坂
27歳の頃に作曲家というより、正確に言うと作曲科を目指しました。もっとちゃんと勉強しようと思って。実は、高校の時に音楽をやることに関して親に反対されたんですよ。そこで一旦諦めてしまって。その後、サラリーマンやフリーターをしていたのですが、ずっとちゃんと音楽をやらなかったことを後悔して、鬱屈した日々を送っていました。
浅野
ちなみにどんな仕事歴が?
逢坂
青森で自動販売機を設置する仕事などしてました。冬は寒いですし、雨でも傘させないし、来る日も来る日も設置しないといけなくて、大変な仕事なんですよ!(笑)
浅野
自動販売機を設置していた作曲家は初めて会いました(笑)そのころのつらい日々の経験は何かに反映されていますか?
逢坂
反映されていますね。そのころは自分が何をやったらいいのか、何が自分に向いてるのか全く分からなかったです。細々と和声の本を読んだり、作曲をしたりしてたんですが、全く自信がなかったんですね。本当に鬱屈とした日々を過ごしていました。ただ30歳を意識しはじめて、このままじゃいけない!と一念発起して、作曲科に入学するために勉強をはじめ、無事、東京藝術大学に入学することができました。
浅野
本当につらかったんですね。今、幸せですか?
逢坂
今一番幸せですね。
浅野
自分を肯定できるのはいいですね。
逢坂
39歳でもう人生半分くらい過ぎてますよね、お互いに。肯定したほうが得だし、肯定して生きていた方がいいと思います。
浅野
そういうふうに頭でわかっていても、普通心がついてこないですよ。
逢坂
無事藝大には入れたんですが、入ってから最近までは結構自分を否定していたんですよ。今までの人生を後悔していたというか。ピアノを子供のころからやっていなかったっていうのもすごくコンプレックスだったので。ただ、曲もだんだん書けるようになって、お仕事も少しずつ頂けるようになってきて、自分を肯定できるようになってからは少しずつですが、幸せを感じるようになってきました。つらいときに支えてくれた友人に本当に感謝しています。
逢坂 裕

作曲のよろこび

浅野
作曲をしていて楽しいとき、よろこびを感じるときは?
逢坂
納得のいくものが出来たときです。また、曲が9割できて全体像が見えてきたときに喜びを感じます。
浅野
だいぶそれまでに時間かかりますね。
逢坂
だから全体像が見えるまで、苦しいときはあります。ただ、それからは楽しいです。
浅野
ちなみに作曲家になってよかったなーと思う瞬間はありますか?
逢坂
僕の曲がある程度、僕以外の方に価値を認めていただいたときとか。特に自分が尊敬する演奏家の方に認めていただいたときは本当に嬉しいです。他には、自分がここまで和音を理解して使えるようになった、っていう自分の成長を感じるときとか。
浅野
作曲家としての成長も喜びと。
逢坂
そうですね、自分の技術が伸びて以前出来なかったことが出来たときは達成感を感じます。また楽曲分析がすごい好きなんですよ。ウォルトンが一番好きなんですけど、彼の書いた音符の意味が読み解けるようになったときはとても嬉しかったですね。
浅野
先日、新曲の構造等について逢坂さんに講義していただきましたけど、逢坂さんの話おもしろいですよね。分析もそうですが、いろんな例とかがでてきて、聞いていて飽きないです。
逢坂
ありがとうございます!作曲のレッスンもやっていて、生徒さんにもいろいろお話させていただいてるからですかね。
浅野
レッスンもやってるんですね!よし、ここで生徒募集って入れよう(笑)いろんな生徒さんを受け入れているんですよね?
逢坂
そうですね、教室でやっています。
浅野
僕も習いたいなー
逢坂
ぜひぜひ!
逢坂 裕

影響を受けた作曲家

浅野
影響を受けた作曲家、演奏家はいますか?
逢坂
坂本龍一さん、久石譲さん、ジョンウイリアムズとか。クラシックだとウォルトンが一番影響受けました。
浅野
映画音楽とかそっちが多いですね。
逢坂
映画が大好きなんです。バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンのようなクラシック作曲家は、自分が教えなきゃいけなくなってから勉強を始めました。
浅野
では、バリバリの現代音楽みたいなのはあまり興味ない?
逢坂
やはり調性があるものの方が興味がありますね。
逢坂 裕

新曲「交響曲」について

浅野
今回作曲していただいた交響曲はすごくポジティブな作品に感じます。聴いてる人が前向きになるような演奏をしないといけないですね。
逢坂
別に前向きなメッセージを発信しようと作ってはいないんです。自分自身で聴いておもしろいと感じることが一番大事だと思っています。ほかの方に委嘱で書いた曲でも、自分が納得いかなかったりしたら、しゅんってなりますし。まずは自分の耳の快楽が一番大事です。
浅野
じゃあそれを共有してほしいと。
逢坂
はい。
浅野
今回の演奏会はシベリウスの交響曲第1番に取り組んでいて、フィンランドの音楽をやっているわけですけど、シベリウスの和声ってちょっと冷たい感じとか、寒々しい感じとか、フィンランドを思い起こさせますよね。逢坂さんの音楽には、自分の生まれ育った土地の気候とかって反映されていると思いますか?
逢坂
青森の音楽を意識的に取り入れるということは、まだやっていません。聴く人によっては北国的なものをイメージする人はいるかもしれませんが・・・
浅野
なるほど。例えば逢坂さんの今回の作品で、青森的要素が一番強い部分ってありますか?
逢坂
3楽章のアレグロのエネルギッシュな感じ、あの興奮の度合いはもしかしたら青森のねぶたから来ているかもしれません。表層的にはまったく似ていませんが、深層のところでは関係あるかもしれません。
浅野
おもしろいですね。それを聞くと、伊福部昭も北海道出身で、アイヌの雰囲気とかが出てますけど、似たようなものを感じられますか?
逢坂
それはないですね。表現に民族的なものを取り入れるのか、システマティックに理論的に取り入れるのかが違っていて、伊福部さんは割と表現寄りですよね。
浅野
スピリット的なとこで熱さみたいなのがある?
逢坂
僕はどちらかというとスピリット的なものより、音楽のシステムを考察するんです。そして自分なりの理論とかいろいろ分析で得たものを取りいれることに興味があります。
浅野
今回の作品で、一番力を入れたところは?
逢坂
全部って言いたいですね(笑)
浅野
みなさんそう言いますね(笑)
逢坂
そりゃそうですよね。自分の子供の何がかわいいって全部かわいいですもんね。その中でも、和声の気持ちよさっていうのは聞いてほしいですね。
浅野
気持ちよさを聞いてほしい?でも作曲家によっては、心が苦しくなるような和声の運びとかもありますよね。逢坂さんにとっては気持ちいい、快楽的な感じを聞いてほしいということですか?
逢坂
そうですね。音そのものから得られる喜びってあるじゃないですか、その音を聞いた時にしか得られない感情があるんです。音そのものを楽しんでほしいというか。僕の曲は物語性とか、そういったものはないので。ブルックナーが好きなのはそういうところなんですよ。純粋に音を楽しむ感じがします。
浅野
あんまり曲にストーリーをつけるっていうよりは和声の流れのなかで、感覚で快楽を得てほしい?
逢坂
そうですね。音楽的なテーマのほうが好きだし、読み解くのが楽しい。逆のタイプだと、例えばマーラーって物語を理解しないと曲を理解できないじゃないですか。
浅野
例えばカウベルが出てきたり、ラッパがでてきたり、子供のころのマーラーの記憶が反映されてたりしますもんね。
逢坂
実人生を音楽化したりしてますよね。それに比べてブルックナーは単純にフレーズを繰り返してるとか、どんどん転調してるとか、システマティックに曲が展開していくとか、とにかく純粋な音楽ですよね。そっちのほうが好きなんです。
浅野
今回の交響曲も和声やコードから作っていったんですか?
逢坂
ええ。和声をもっとも作曲していくうえで大切にしています。理詰めでもやっていますが、感覚的なものも大事にしています。どっちも必要なんです。和声と旋律については推敲を繰り返します。ただ、リズムに関しては興味はありますけど、和声ほど系統立てて理解はしていないですね。感覚的に書いていると思います。

作曲家 逢坂裕のこれから

浅野
これから作曲家としてどんな活動をしていきたいですか?
逢坂
とにかくいっぱい曲を書きたいです。筆は遅いんですけど、とにかくいっぱい書けるようになりたい。
浅野
それで何かになりたいというより、書くこと自体が目的ですか?
逢坂
書くこと自体も大事な目的ですが、もっと大衆に愛される曲を書きたいと思っています。映画音楽もやりたいですが、純クラシック系の曲も続けていきたいと思っています。
浅野
映画音楽といえば武満徹がやっていましたが、ああいう方向性ですか。それともジョンウィリアムズ?
逢坂
ジョンウィリアムズの方向性ですね。武満徹さんの影響はあまりないですね。
浅野
それでは3月の演奏会を聴きに来てくれる人たちへメッセージを。
逢坂
純粋に音そのものを楽しんでいただきたいですね。いい音楽聴いたなと思ってもらえるとうれしいです!
浅野
ありがとうございました!
逢坂 裕

逢坂さん、ありがとうございました!