作曲家 木下正道 X 謎の インタビュー仮面

アンサンブルフリーインタビュー画像

Special Interview

今回は、インタビュー仮面が登場。

インタビュー仮面
作曲を始めたのはいつごろからですか?
木下
14歳のときからです。何かきっかけがあったわけではなく気がついたら始めていましたね。最初に書いた曲はホルン4重奏でした。バルトークの「弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽」の1楽章みたいな曲で、20小節くらいでしたね。
インタビュー仮面
作曲家を目指しはじめたのはいつ頃ですか?
木下
目指したというのはないですね。「作曲をしたい」というのだけが先にありました。だから自分としては作曲家を目指したわけではなく、自分の聴きたい音楽を書いていたら作曲家になっていた、という感じです。
インタビュー仮面
自分の聴きたい音楽を書く、というのが作曲をする理由ですか?
木下
そうですね。色々好きな音楽を聴いていると、「ここはこうした方がいい」ということが自分の中で溜まってくるわけです。そのうちに「自分でこういう音を聴きたい」というものが出来上がってくるんですよ。それを書いて音にするのが、作曲をする根本理由です。 そういう意味では作曲家になるための勉強というのはしていませんでした。自分が聴きたい音楽をどう実現するかの勉強はしてきましたけれど、いわゆるアカデミックな勉強というのはあまりしてきてないんですよ。 だからひとに教えることはできないと思いますね。これは良いとか、ここは工夫の余地があるとかはわかるけれども、結局それほど教えられないかな。
トロンボーン石井
どういう音楽が好きなんですか?
木下
もちろんブルックナーですよ、ブルックナー。
「五線紙のパンセ」というサイトで色々と熱い想いを書いているので、詳しくはそちらを見てください。
ブルックナー以外にも好きな音楽はいっぱいあります。特にボサノバのアントニオ・カルロス・ジョビン、ノイズのINCAPACITANTSなどは愛聴しています。クラシックはクラシックでいっぱい好きな音楽があるし、ポップスはポップスでいっぱいあるし。あとは特に民族音楽ですね。シベリアとかフィリピンとか台湾とか。
インタビュー仮面
ちなみに影響を受けた音楽と言われたら誰ですか?
木下
ジョン・ケージとシャリーノとシム・クンスの3人から受けた影響が大きいですね。それと高橋悠治さんや権代敦彦さんとか。
あとは年下の作曲家にも多く影響を受けています。川上 統君(EFE第8回委嘱作曲家)もそうだし、PATHという、武生国際音楽祭に参加した作曲家で作ったグループ(私自身もメンバーですが)の連中にも影響を受けています。
インタビュー仮面
作曲をしていて、どういうところで喜びを感じますか?
木下
一番の喜びは、やっぱり本番のあとの打ち上げじゃないですかね(笑)打ち上げをやるために頑張っています。
インタビュー仮面
なるほど(笑)曲を書いて、演奏されて、お疲れ様でしたってやるのが一番と
木下
はっきり言って作曲は非常に辛いんですよ。肉体的にもハードだし、精神的にもハードです。最後の終止線を引く瞬間に「あー、終わったー」と思いますね。そのあとのリハーサルは楽しいし、打ち上げも楽しいし。作曲の作業自体は楽でも何でもないです。
インタビュー仮面
作曲は辛いんですか。辛いというのは、具体的にどういうところですか?
木下
音を想像するのは全然楽なんですよ。例えば鼻歌とかでメロディ作ったりするのは皆さんやるでしょうし、そういうのは楽勝ですよ。
でも、その音が本当に良いかどうかというのを常に吟味しなければならないんです。例えばミからソにいく、ラにいくか、ファにいくか。そういう色々な可能性を全部点検した上で次を選ぶ作業が必要で、これがつらいんです。 あとつらいのは、締切を守らないといけないところですかね。
すべての作曲には締め切りがあるので、時間との闘いです。ただ時間が無限にあるといわれても、多分曲は書けないですね。リミットがあるから、やらなければならないので書く。締め切りがない曲は絶対完成しません(笑)
インタビュー仮面
今回の作品はどんな作品でしょうか?
木下
んー…言葉でいうのは難しいですね。「涙あり笑いあり」ですかね。
インタビュー仮面
え、ホントですか!?それを読んで聴きに来た人怒りますよ、「どこで笑うの!?」みたいな(笑)
木下
(笑)
強いて言うなら、ある種の過酷さを追求した作品かもしれない。変拍子とか演奏上大変だろうなぁ、と思いながら書きましたし。大きな山の形の1~3楽章の流れで、問いと炎というタイトルの通り、炎がついて燃え上がって消えていくプロセスになっています。2楽章で炎が燃え上がって、3楽章はもう燃えカスみたいな。 ドラマティックな展開の中でも、色々なアンサンブルがたくさん出てくるといったオーケストラの面白さを失わないよう意識して書きました。
コンサートマスター早矢仕
木下さんの曲は「様式美」がキーワードと伺いましたが、それは今回の曲でも意識されていますか?
木下
ええ、意識しています。「様式美」が好きなんです。今の時代ではあまり好かれないと思いますが、形ががっちりと決まっているのを自分の曲でも持ちたいと思っています。それは僕の曲の大事なところかなと思います。
木下 正道
インタビュー仮面
関連して、聴き所はどんなところでしょうか?
木下
ホイッスル。
インタビュー仮面
え、様式美とか言ってたじゃないですか!なんでいきなりホイッスル!?
木下
ホイッスルの音がぶつかる違和感を楽しんでほしいんです。違和感はあるけれど、ちゃんと様式的に考えてそうしている。
ホイッスルもその様式の中に含まれている。今回の演奏会では災害用ホイッスルを使うので厳しい音がするんですが、それが楽曲の中に紛れ込んで様式の構成要素になっています。 様式を保ちながら軋轢を生むような考え方。それでも全体として新しいフォルムが生まれていくような様を聴いてもらいたい。
インタビュー仮面
今回の作品で一番苦労して作ったという点は?
木下
全部苦労したんですが(笑)、一番苦労したのは打楽器の選択ですね。バスドラムを3つ使っていいと言われたから、3つ使いました。
インタビュー仮面
バスドラムを使っていいとは言いましたが、3つも使っていいとは言ってないです(笑)
木下
打楽器って曲想を支配するから、どういうのを選ぶかで曲がほぼ決まってしまうことがあるんです。
例えば今回はカホンを使ってみましたが、カホンってポップな立つ音がして曲想に大きく影響を与えてしまうので、バランスを取るのに苦労しましたね。
ヴィオラ吉野
今回の演奏会でベートーヴェンの序曲とブルックナーの交響曲の間に演奏されるわけですが、いわば王道の作品の間にご自身の作品が置かれたということについてどう思われますか?
木下
ブルヲタ(ブルックナーヲタクの略)としては光栄極まりないです。大好きなブルックナーの曲と一緒に自分の曲を演奏してもらえるなんて、世界的にもこんな幸せなブルヲタはいないだろうと思います(笑)
実は今回の新曲の中にコリオランのオマージュがあるんです。1楽章の中間部のドの音のユニゾンはコリオランから来ているんです。コリオランのエコーみたいなものが聞こえるようにしています。曲を書いているときは、プログラムにコリオランがあるとは知らなかったので、プログラムを聞いたときびっくりしました。素晴らしい機会を与えていただいたと思っています。
インタビュー仮面
これからの作曲家としての展望や、どういう活動を展開したいですか?
木下
いつかオペラを書いてみたいですね。大学生のころから、中上健次の「千年の愉楽」に基づいて日本語のオペラを書きたいとずっと思ってるんですよ。
日本語のオペラってあまりないのでいつか書いてみたい。 あとはじっくり音楽や作曲の勉強をしたいですね。時々自分が曲を書きすぎていてどこか浮ついてるんじゃないかと思うことがあるので、もっとしっかり勉強して書きたいという思いがあります。
インタビュー仮面
最後に演奏会に聞きに来てくださる方に一言をお願いします。
木下
「黙って聴け」と言いたい。本当にそれだけは言いたい(笑)
イメージを求めるのではなく、音の成り立ちや音そのもの、演奏家の知性、身体性からほとばしってくる何か、をあまねく漏らさず聴いてほしいと思います。そのあとにイメージがあると思うので。今回の3曲全てに共通すると思うのですが、イメージ的に聞くんじゃなくて音そのものの組み合わせの面白さを感じ取ってもらえたらいいんじゃないかなと思います。そういう意味での「黙って聴け」です。余計な先入観無しで、虚心で聴いてほしいです。アンサンブル・フリーEASTなら必ずそれくらいの演奏をしてくれると期待しています!
木下 正道

木下さん、ありがとうございました!