作曲家 阿部俊祐 X 指揮者 浅野亮介

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Special Interview

浅野
作曲家を目指したのは、いつ頃ですか?
阿部
しっかり職業として意識したのは高校2年生の時ですね。この頃から、本格的に勉強を始めました。
ただ、これは自分でもすっかり忘れていたのですが、中学校1年生の時に学校行事でタイムカプセルを埋めまして、その約10年後に開かれた同窓会を機に開封してみると、そこに「将来の夢は作曲家」と書いてあったんです。
自分でもびっくりしました(笑)
浅野
作曲家になりたいと思ったきっかけは何ですか?
阿部
最初、吹奏楽でトロンボーンを吹いていたんです。でも、僕の生まれ育った秋田には、当時トロンボーンの先生がいませんでした。
楽器で音大に行きたかったのですが、秋田大学に作曲の先生がいらっしゃって、作曲のレッスンを受けているうちに「作曲家もいいな」と思うようになりました。あと、人前に出るのが苦手なもので…
浅野
確かに作曲家の人は「人前に出るのが苦手」とおっしゃる方が多いですね。過去にはかなり重症な方もいらっしゃいましたが、阿部さんは話をしていても、とても社交的に見えますよ?
阿部
お話をするくらいはいいんですが、「人前で音楽をする」というのがダメなんです。作って人に託すほうが性に合っているようです(笑)
浅野
好きな作曲家や影響を受けた音楽家はいますか?
阿部
クラシックで言うとラヴェル、デュティユー、ルーセルあたりでしょうか。
浅野
フランスの作曲家ばかりですね。
阿部
そうですね。「過去からの延長線上の現在」とでも言うような彼らの懐古的音楽性が、僕の心に響きます。
他のジャンルだとジャズのハービー・ハンコック、アニソンやゲーム音楽の分野では菅野よう子あたりは大好きですね。
阿部 俊祐
浅野
アニメ、お好きなんですか…?
阿部
特によく見ているというわけではないんです。アニメは見ないで曲だけ聴く…ということもよくあります。好きな作曲家の曲だけチェックするとか(笑)
浅野
そしたら、ゲームも音楽だけ聴く?
阿部
ゲームの音楽だけ楽しむことも多いです。昔はよくプレイしましたよ。今は忙しいこともあって、全然できませんが。
浅野
どんなゲームがお好きでしたか?
阿部
「Mother 2」は大好きでした。
浅野
作曲家としての喜びとは、どんなことでしょうか?
阿部
一番喜びを感じるのは納品した瞬間ですね(笑) 後はやはり、自分の作品が音になる時です。特にオーケストラ作品は嬉しいです。とても希少なことなので。
阿部 俊祐
浅野
それでは、作曲家として辛いことや苦しいことは?
阿部
孤独なことですね。作っている時の苦しみを誰にも共感してもらえません。あとは、去年から大学で働き始めましたが、大学業務と自分の音楽活動、その両立が難しいですね。
浅野
音楽を離れて、嬉しいことや楽しいことはありますか?
阿部
親友と札幌のすすきので飲んでいる時は幸せです(笑)
浅野
悲しいことや、辛いことは?
阿部
悲しみや辛いことは色々ありますが、一番辛いのは家族や友人、尊敬する芸術家など、大切に想っていた人の死ですね。
僕の作品にはバックヤードに哀しみを含むものが多いと感じていますが、そういう出来事が影響をしているんだと思います。自分の命を見つめなおしますね。
阿部 俊祐
浅野
作曲家になっていなければ、どんな職業に就いていたと思いますか?
阿部
考えたことないですね…。中学校くらいから「音楽しかない」と思っていましたし、今となっては作曲家以外は考えられません。
浅野
今回の新作《ユリイカの樹》は、簡単に言うとどんな作品でしょうか?
阿部
この作品を作曲するにあたっては、イメージを大切にしました。
現代曲では曲の構造やシステムが重視される場合も多いのですが、今回の作品は一本の樹が成長していく様子や雰囲気を絵画的、映像的に思い浮かべて音として表現しています。
そういう意味では「夢想的な作品」と言えるかもしれません。
浅野
「映像」と言うとドビュッシーを想起しますね。
阿部
そうですね。実はドビュッシーはそんなに好きではないのです。でも、作品はよく「ドビュッシー的だね」と言われます。悲しいような嬉しいような、複雑な気持ちになります(笑)
浅野
ドビュッシー、あまりお好きではないんですね。意外です。
阿部
断然ラヴェルのほうが好きですね。ドビュッシーとラヴェルはよく一まとまりに「印象派」と呼ばれたりしますが、僕にとって両者は全く違う音楽です。
ラヴェルは「印象派」というより「懐古派」、「新古典派」など、くっきりした複数の作風・音楽性が垣間見える作曲家で、色彩的でいて明瞭な音使いの妙がドビュッシーより断然、僕の心に響きます。
浅野
今回の作品は、どんなところに力を入れて作曲なさいましたか?
阿部
樹の成長していく様子を、時間軸上でどのように映像的に配置していくか…という点です。
阿部 俊祐
浅野
作曲中、苦労したところはありますか?
阿部
これは毎回なのですが、作品の出だしには一番骨が折れます。僕の場合、途中をまず書いて…ということができません。いつでも、冒頭から書き始めます。
3,4小節でも書けてしまえば後は流れに任せるだけなのですが、音楽を最初に生み出す瞬間はいつも苦心します。
浅野
今回の作品の聴きどころは、どこでしょうか?
阿部
聴きどころは、敢えて言いません。演奏者の方にお任せし、それを聴かれる方が何かしら感じ取っていただければいいな、とは思っています。
浅野
お任せなんですね(笑) 作曲家として「このように演奏して欲しい!」という気持ちはありませんか?
阿部
お任せというか、「託す」に近いです。僕の場合は、作曲家と演奏家の間に解釈の違いがあってもそんなに気になりません。
自分のやりたかったことと演奏家が出してきたものに相違があっても、演奏に説得力さえあれば納得してしまいますし、それがまた楽しみでもあります。
浅野
これから作曲家として、どのような活動を展開していきたいとお考えでしょうか?
阿部
30代というのは、一番アグレッシブになれる年齢だと思うんです。とにかくたくさんの作品を書きたいと思っています。
芸術音楽以外の分野、映像作品や商業音楽にも積極的に関わっていきたいです。
芸術音楽の分野では、今は「詩」や「語り」と音楽を結びつけることに興味があります。50歳や60歳になったら、演歌も書いてみたいですね。要は、その時にやりたい音楽を書く、ということですね。
浅野
それでは最後に、3月13日の演奏会にお越しいただける方にメッセージをお願いします。
阿部
今回、この委嘱のお話をいただいて、市民の楽団が現代曲を演奏するのは、すごいチャレンジだな…と思いました。それと同時に、「ついに、そんな時代が到来したのか」と感慨深い気持ちになりました。
専門家でない方たちが「新しい音楽を生み出そう」と行動を起こして下さる、そこに関われたことを大変嬉しく思っています。
皆様が新しい音楽から刺激を受けるような演奏会となれば幸いです。
阿部 俊祐

阿部さん、ありがとうございました!

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