この曲は、ヨハン・セバスティアン・バッハ(1685~1750)の無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番 BWV 1004の終曲である。
シャコンヌとは、17・18世紀にイタリアで流行した3拍子の舞踏曲のことである。
バスク語の「かわいらしい(chocuna)」が語源であり、16世紀ごろには快活なテンポだったと言われているが、時代が進むにつれてテンポが緩やかに、そして荘厳になっていった。またシャコンヌの最大の特徴は、冒頭に提示された数小節単位の主題を、同じコード進行のまま変奏していくことである。
原曲のバッハの「シャコンヌ」はヴァイオリン独奏のための作品で、組曲全体の半分にあたる約15分を演奏に要する楽曲である。
シャコンヌ特有の反復されるバスの動きは、常に表に現れるわけではなく陰で作品全体を支配する様子として作品の奥深さを際立たせている。
また、このヴァイオリン・パルティータ第2番はアルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグ、シャコンヌという5つの舞曲で構成されている。
バッハが作曲したパルティータはジーグで締めくくられるものが大多数である。
逆に、ジーグがありながら他の曲が終曲に置かれたものは殆どない。
つまり、バッハ自身がこのシャコンヌを特別な楽曲として位置付けていたことが窺える。
この作品は後世の作曲家たちによってさまざまな編成へとアレンジされている。
管弦楽版では齋藤秀雄、ストコフスキー等が手掛けているが、今回取り上げるのは、その草分けとなったヨアヒム・ラフ(1822~1882)による編曲版である。
ラフはスイス出身の作曲家・ピアニストで、若い頃にリストの助手としてオーケストレーションの腕を磨き、その後11の交響曲を作曲する等多くの作品を残した。
ラフは、「当初この作品は多声部を想定して作られた音楽であり、それをバッハ自らヴァイオリン独奏に落とし込んだものではないか。つまり本作品の本来の姿はヴァイオリン独奏版よりもスケールの大きな存在である。故に、この作品の真の姿を追求するために現在のオーケストラの編成で表現することが当管弦楽版の目的である」(スコアの序文より要約)としている。