Ensemble Free West

第33回演奏会

2021年9月の第5波の収束以来、新型コロナウイルスを取り巻く情勢は少し落ち着きを見せてはいるものの、新しくオミクロン株の出現が報道され、まだまだ油断のできない状況が続いております。
現在のところ緊急事態宣言は全面的に解除されておりますが、私たちアンサンブル・フリーWESTは慎重を期して本年もクローズドで演奏会を開催いたしました。
その模様を今回も配信にてお楽しみいただきます。

今回お届けする曲は以下の3曲です。
まず、バッハの不朽の名作である独奏ヴァイオリンのためのシャコンヌを、ロマン派の作曲家であるヨアヒム・ラフが編曲した管弦楽版でお届けします。
次に、社会と芸術の間で苦しみながらも画家として絵を描き続けたマティス・ゴートハルト・ナイトハルト、その生涯を題材にしたヒンデミットの交響曲「画家マティス」をお届けします。
そして、ブラームスの最後の交響曲である第4番をお届けします。
どれも技巧の凝らされた傑作ばかりです。

来年は皆様の前で演奏会を開催できるよう心から願っております。今後ともアンサンブル・フリーWESTをどうぞよろしくお願いいたします。

2021年11月28日
アンサンブル・フリーWEST 代表 浅野 亮介


プログラム

2022年01月10日(月)21:00 ~ 公開
第 33 回演奏会
  • J. S. バッハ(J. ラフ編):
    無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番 BWV 1004より
    「シャコンヌ」(管弦楽版)
  • P. ヒンデミット:
    交響曲「画家マティス」
  • J. ブラームス:
    交響曲第4番 ホ短調 作品98

  • 指揮:浅野亮介

    指揮者・団紹介

    浅野 亮介
    浅野 亮介
    Ryosuke Asano

    神戸大学国際文化学部を経て同大学院博士課程前期課程修了。
    大学院では美学理論を学び、シェーンベルクを中心とした 20 世紀初頭のドイツ音楽を軸に、古典派からロマン派まで幅広く研究対象とする。
    2000 年に関西一円からメンバーを集め、アマチュア・オーケストラ「アンサンブル・フリー」を設立。これまでに 30 回以上の演奏会を開催し、国内の優秀なソリストと数多く共演、マーラーの《交響曲第 3 番》や《大地の歌》、R・シュトラウスの《アルプス交響曲》などの大規模な楽曲にも取り組み、成功を収めている。
    2013 年に関東地方に「アンサンブル・フリー EAST」を設立。新進気鋭の若い作曲家や演奏家とコラボレートするなど、従来のクラシック音楽の傑作を紹介するとともに、新しい音楽の開拓と発展に力を注いでいる。

    アンサンブル・フリーWEST

    2000 年に京阪神を中心に活動するオーケストラとして設立。
    演奏会ごとに出演者を募集し、100 名を超える大編成の曲や、実演の機会が少ない曲にも積極的に挑戦している。
    2015 年より、新進気鋭の若手作曲家や演奏家とコラボレートする等、新しい音楽の開拓と発展にも取り組んでいる。
    また、2013 年には、主に東京で活動をするアンサンブル・フリーEAST が誕生。次世代を担う作曲家の発掘のため演奏会ごとに作品を委嘱・演奏し、また実力ある若手ソリストと共演し、演奏する場を拡げている。

    プログラムノート

    J. S. バッハ(J. ラフ編)
    無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番 BWV 1004より
    「シャコンヌ」(管弦楽版)

    この曲は、ヨハン・セバスティアン・バッハ(1685~1750)の無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番 BWV 1004の終曲である。
    シャコンヌとは、17・18世紀にイタリアで流行した3拍子の舞踏曲のことである。
    バスク語の「かわいらしい(chocuna)」が語源であり、16世紀ごろには快活なテンポだったと言われているが、時代が進むにつれてテンポが緩やかに、そして荘厳になっていった。またシャコンヌの最大の特徴は、冒頭に提示された数小節単位の主題を、同じコード進行のまま変奏していくことである。

    原曲のバッハの「シャコンヌ」はヴァイオリン独奏のための作品で、組曲全体の半分にあたる約15分を演奏に要する楽曲である。
    シャコンヌ特有の反復されるバスの動きは、常に表に現れるわけではなく陰で作品全体を支配する様子として作品の奥深さを際立たせている。

    また、このヴァイオリン・パルティータ第2番はアルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグ、シャコンヌという5つの舞曲で構成されている。
    バッハが作曲したパルティータはジーグで締めくくられるものが大多数である。
    逆に、ジーグがありながら他の曲が終曲に置かれたものは殆どない。
    つまり、バッハ自身がこのシャコンヌを特別な楽曲として位置付けていたことが窺える。

    この作品は後世の作曲家たちによってさまざまな編成へとアレンジされている。
    管弦楽版では齋藤秀雄、ストコフスキー等が手掛けているが、今回取り上げるのは、その草分けとなったヨアヒム・ラフ(1822~1882)による編曲版である。
    ラフはスイス出身の作曲家・ピアニストで、若い頃にリストの助手としてオーケストレーションの腕を磨き、その後11の交響曲を作曲する等多くの作品を残した。

    ラフは、「当初この作品は多声部を想定して作られた音楽であり、それをバッハ自らヴァイオリン独奏に落とし込んだものではないか。つまり本作品の本来の姿はヴァイオリン独奏版よりもスケールの大きな存在である。故に、この作品の真の姿を追求するために現在のオーケストラの編成で表現することが当管弦楽版の目的である」(スコアの序文より要約)としている。

    P. ヒンデミット
    交響曲「画家マティス」

    パウル・ヒンデミット(1895~1963)はドイツのヘッセン州ハーナウ生まれの作曲家・指揮者・ヴィオラ奏者で、多彩な音楽的才能に恵まれた。
    この曲は自身作曲の同名のオペラから3つの楽章に再構成したもので、完成した1934年3月にフルトヴェングラー指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団によって初演された。

    画家マティスとは、実在した宗教画家マティス・ゴートハルト・ナイトハルトのことで、16世紀のドイツ農民戦争(カトリック教会 vs 農民)の人物の史実を描くことで、ワーグナーの「楽劇」にとって代わる「叙事演劇」を打ち立てた。

    ヒンデミットもまた時代に翻弄された人物である。
    妻がユダヤ人であり、多くのユダヤ人演奏家とも親交があった。ユダヤ人や前衛芸術家を嫌ったナチスは、彼に一時歩み寄りの姿勢を見せてきたかと思うと、今度は「無調の騒音製造者」などと徹底的に排斥しようとしてきたのだ。
    そんな彼を、当時のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督であったフルトヴェングラーが「排斥の動きは根拠がなく、彼は現代のドイツ音楽に不可欠な人物だ」との論評「ヒンデミット事件」などで、強力に擁護した。
    その結果、ヒンデミットもフルトヴェングラーも、のちにスイスへの亡命を余儀なくされることとなった。
    すなわち、この作品は、時の権力者に追われる作曲者自身の境遇を、マティスに重ね合わせた自伝的作品とも言える。

    この交響曲は何となく神聖さを感じさせる。
    それもそのはず、ルネサンスの音楽を構成した教会旋法という音階が使われているためである。
    ルネサンス期はちょうどマティスの生きた時代であり、これも上述の「叙事演劇」の一要素であろう。

    なお、各楽章の題名は、いずれもマティスの代表作「イーゼンハイム祭壇画」にちなんでいる。

    第1楽章 「天使の合奏」(Engelskonzert)
    オペラの前奏曲にあたる序奏付きのソナタ形式。各種教会旋法が駆使されている。
    開始20秒後に登場し、トロンボーンから始まり管楽器全体へと広がる第1主題は、ドイツ民謡「3人の天使が歌う」に由来する。
    その後、速いテンポでフルートとヴァイオリンが第2主題を奏でる。

    第2楽章 「埋葬」(Grablegung)
    第7場、最終場面への間奏曲にあたり、ドリア旋法(ド-レ-ミ♭-ファ-ソ-ラ-シ♭ -ド)が登場する。
    農民戦争を指導した小作人頭シュヴァルプの娘レギーナの死を悼む。
    使徒ヨハネと聖母マリア、マリア・マグダレナがキリストの遺体を囲んで死を悼む「イーゼンハイム祭壇画」の「埋葬」と重なる。

    第3楽章 「聖アントニウスの誘惑」(Versuchung des Heiligen Antonius)
    「誘惑」は「試練」とも訳される。
    第6場、マティスが見る幻影の音楽を再構成したもので、各登場人物が姿を変えて誘惑してくる(試してくる)場面。
    「イーゼンハイム祭壇画」では聖アントニウスが11匹の悪魔から受けた「荒野の試み」が描かれており、この楽章も11のセクションからなる。

    J. ブラームス
    交響曲第4番 ホ短調 作品98

    ヨハネス・ブラームス(1833~1897)は4つの交響曲の他、ピアノやヴァイオリンの協奏曲を含む管弦楽曲や室内楽曲、独奏曲を数々残したドイツの大作曲家である。

    ブラームスは、ベートーベンの9つの交響曲を意識するあまり、彼自身の交響曲第1番を書きあげるまでに21年の歳月を要した逸話はあまりにも有名であり、ブラームスを語る上で、ベートーベンの存在を外すことはできない。
    しかし、ブラームスの作品の本質は、ベートーベンのみならず、古今東西の音楽家が積み重ねてきた音楽の歴史を最大限に彼自身の手法によって芸術的に仕上げ直していることにある。

    例えば、代表的な管弦楽曲である「ハイドンの主題による変奏曲」もその名の通り、ハイドン作とされるディベルティメントの主題を用い、新たな音楽作品を世に送り出している。また、生涯深い親交を保ち続けたクララ・シューマンが右腕を怪我した際には、左手だけで演奏できるよう、本日1曲目に演奏するバッハの「シャコンヌ」を再構成し、クララに送ったという記録もある。
    さらには、かの有名な「ハンガリー舞曲」は代々ジプシー民族が歌い繋いできた題材を、彼自身の手によってドイツ音楽による芸術作品そのものにまで昇華させている。
    このように、ブラームスの作品には、彼の時代までの音楽全てが詰まっていると言っても過言ではないだろう。

    今回演奏する交響曲第4番は、古典派音楽の型ともいえるソナタ形式で書かれた第1楽章にはじまり、第2楽章では古代ギリシアにルーツを持つとされるフリギア旋法を用いた主題が続く。
    第3楽章では快活なスケルツォ風の音楽が展開されたのち、第4楽章ではバッハのカンタータから着想したとされる主題を用いて、劇的な「シャコンヌ」として交響曲を締めくくっている。
    彼自身が最高傑作と述べた交響曲第4番は音楽が積み重ねてきた歴史そのものなのかもしれない。

    予告動画・関連動画のご案内

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      *第33回演奏会配信についての注意事項*

    • アンサンブル・フリーWEST 第33回演奏会配信(以後、本動画)に使われる演奏は、すべてアンサンブル・フリーWESTが演奏したものです。
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      • 練習時の対応
        • 体調不良や発熱時に欠席を義務化
        • 手指消毒・発言時のマスク着用、1 時間に 1 回程度の換気等の徹底
        • 3密につながるような行動の回避
      • 公演までの 2 週間に以下に該当する場合は出演を控える。
        • 平熱より高い、または 37.5℃以上の発熱
        • 咳、呼吸困難、全身倦怠感、咽頭痛、鼻汁・鼻閉、味覚・嗅覚障害、関節・筋肉痛、下痢・吐き気・嘔吐
        • 陽性者との濃厚接触
        • 入国制限のある国・地域への訪問歴、または該当者との濃厚接触
      • 当日の来場者への協力依頼
        • 会場内でのマスク着用、電子チケット(teket)での入場管理、プレゼント&楽屋見舞いを禁止
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