フェルナンド・リーデラー X アンサンブル・フリー

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Special Interview

委嘱作品《Komorebi》の作曲者であるフェルナンド・リーデラーさん(ウィーン在住)にインタビューしました。インタビュアーは、浅野亮介(当団指揮者)です。

作曲者自身について

浅野
いつ頃から作曲家を目指されたんですか?
リーデラー
音楽の勉強は子どもの頃からしていました。無邪気なことに、勉強を始めてすぐに小品を作曲するようになりました。しかし13歳か14歳の頃に私は20世紀音楽への関心を持ち始めました。特にシェーンベルクとバルトークです。その時から私は音楽のみならず芸術全般の歴史、そして音楽理論をより真剣に学び始めました。そして数年後には作曲の勉強をすることに決め、それ以来、定期的に作曲をしています。
浅野
貴方を作曲家の道へと駆り立てたものは何ですか?
リーデラー
唯一無二のものを目指す喜びですね。音楽や芸術の魅力って、私たちが昔ながらに「これが一般的だ」とか「こういうことが楽しいものなんだ」と考えていることからの逸脱だと私は思うんです。
浅野
貴方に影響を与えた音楽家や芸術家はいますか?
リーデラー
それにお答えするには長いリストを作らなければいけません笑 作家、作曲家(既に言及したシェーンベルクやバルトークの他に、ジョン・ケージ、ブルーノ・マデルナ、グスタフ・マーラー、チャールズ・アイヴズ、ガリーナ・ウストヴォーリスカヤ…本当に沢山います。とても好奇心旺盛に新しいレパートリーを探し続けているんです。)、それだけでなく色々な国の伝統音楽や民謡などもあります。映画も大好きで、私の作品の雰囲気や語り口にはその影響もあると思います。
浅野
音楽に関係なく、今までで一番嬉しかったことは何ですか?
リーデラー
娘を授かったことです!
浅野
じゃあ、一番悲しかったことは?
リーデラー
「これ」という経験があるわけではありませんが、人との別れ、特に死は悲しいです。
浅野
休日はどんなことをして過ごすんですか?
リーデラー
先ほども言いましたが映画は好きですね。あとは本を読んだり。しかし最近では長距離サイクリングや旅行にハマっています。昔、大好きだったんですけど、その情熱がいま再燃しています。特に自然公園、川や湖のほとりが好きです。
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音楽とは

浅野
どんな時に作曲家としての喜びを感じます?
リーデラー
二つありますね。一つは抽象的なアイディアやコンセプト、イメージを作曲の過程で音楽として具現化していくこと。もう一つは音楽家たちとリハーサルすることです。リハーサルは私にとって最も音楽の勉強ができる時間です。今回、遠く離れた日本でのリハーサルに参加できないことは、本当に残念です。
浅野
作曲家として辛いのはどんな時ですか?
リーデラー
出来上がった作品が音楽のポテンシャルを上手く表現できていない時ですね。多くの場合、私の書き方が悪いのですが、たまにプレイヤー側が十分に理解してくれていなかったり、リハーサルの時間が足りないためにそのような結果になることがあります。どちらもフラストレーションが溜まりますね。また、一つの作品を作曲するには多大な時間と労力が必要なわけですが、一度しか演奏されず、深く解釈されないままで終わるのはとても悲しいです。
浅野
どんな音楽を好んで聴きます?
リーデラー
一つには絞れないですね~。色んな時代の色んなスタイルの音楽を聴きます。ブラジル民謡、ポップス、クラシック音楽、オペラ…でも、最近は録音された音楽はほとんど聴いていないです。

「木漏れ日」という日本語、そして今回の作品について

浅野
日本について、どんな印象をお持ちです?
リーデラー
すごく魅力的で豊かな文化を持っている印象です。日本語を勉強したこともあります。(残念ながら、とても短期間だったのですが…) もう何年も合気道を習っているんですよ。とても好きな文化です。2013年に日本を訪れる機会がありました。とても美しかったです。特に鎌倉と京都は深く印象に残っています。
浅野
「木漏れ日」という日本語をどうやって知ったんですか?
リーデラー
2018年だったか2019年だったか、「他の言語には翻訳できない単語」という記事を読んだんです。そこの記事の中に出てきました。すぐに「とても詩的で音楽的な言葉だな…」と感じました。この委嘱のお話をもらった時に、この言葉をもとに作曲するまたとない機会だと考えました。
浅野
この単語を知る前から「木漏れ日」について認識していましたか?
リーデラー
私、光を観察するのが大好きなんですよ。日の出や日没、光と影が色彩に影響を与え、世界の認識が変化していく様子などです。森が大好きで、環境の中で植物や動物がどのように影響し合っているかをいつも観察しています。ずっと前からこの現象のことは知っていましたが、それを表す単語が日本語にあると知り、とても嬉しい気持ちになりました。
浅野
この作品を通して聴き手にどのようなことを伝えたいですか?
リーデラー
伝えたいことなどありません。貴方が森の散歩を楽しむ時のように、聴こえてくる音とその雰囲気を楽しんで欲しいのです。そのような時間を提供したいと考えています。
浅野
他にも好きな自然現象ってあります?
リーデラー
自然現象そのものが好きなのではありません。自然現象を五感で感じ、それらを楽しもうとするその行為が好きなのです。私たち人間が急速にこの惑星を破壊していることは、とても残念です。
浅野
他にも自然現象にインスピレーションを得て書いた作品はあるんですか?
リーデラー
ありますよ!浜辺の音楽、風景の音楽、光の音楽など…
浅野
《Komorebi》を作曲する際に、どんなことに苦労しましたか?
リーデラー
やはりコロナウイルスのパンデミックにより、何もかもが不確実になったことですね。長い時間、作曲が中断されました。そして再開する際には、色々なことを考え直し、再選択し、計画を練りなおさなければいけませんでした。
浅野
今回の作品の特徴とは、どのようなことでしょうか?
リーデラー
思索、とりとめもない空想、明確なゴールのない彷徨です。瞬間瞬間に聴こえてくる細かい音が形式と同じか、それ以上に重要です。
浅野
日本のアマチュアオーケストラから委嘱された時、どのように感じましたか。
リーデラー
まだ演奏会が終わってないので結論づけることはできません。しかし、既にとても刺激的で充実した時間を過ごさせてもらっています。
浅野
今後の活動予定を教えてください。
リーデラー
私はいま二つの小品に同時に取り組んでいます。(ハープシコード二重奏曲と一連の歌曲です) どちらの企画も出演者と密にコンタクトを取りながら進めています。目下の関心は、この共同作業ですね。
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リーデラーさんから皆さんへのメッセージ

浅野
9月17日の演奏会に来てくださる人達へメッセージをお願いします。
リーデラー
未知の森を散歩するような感覚でこの音楽を楽しんでください。音だけでなく匂い、色彩、風、湿度、気温など…貴方の五感をフルに使って、その瞬間瞬間に聴こえてくる音を楽しみ、ハーモニーにどっぷりと浸かっていただければ幸いです。