尺八奏者 黒田 鈴尊 X 指揮者 浅野亮介

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Special Interview

浅野
尺八を始めたのは、いつからですか?
黒田
20歳の夏からです。
子どもの頃からピアノが大好きで、高校以降はギターやドラムもやっていました。
大学は一般大学に進学し認知心理学を学んでいましたが、サークル活動ではチャンゴ(韓国の伝統的な太鼓)を習ったりもしていました。
卒業と同時に芸大に入り直したんです。
浅野
何がきっかけで尺八を始めようと思ったのでしょうか?
黒田
武満徹作曲の《ノヴェンバー・ステップス》のCDを聴いたことがきっかけでした。
この体験が衝撃的で、尺八とは何て素晴らしい楽器なのかと、本当に脳みそが180度回転するような感覚でした。
チャンゴを習った経験から、自分も「日本人としての血やルーツで何かを演奏したい」と感じたことも、きっかけの一つですね。
浅野
心理学の道から音楽の道へと転向する時に、不安や迷いはありませんでしたか?
黒田
いや、その時はそんな冷静な気持ちはありませんでした。
偶然にも住んでいるところの近くに人間国宝の先生のお宅があったのですが、
とにかく「尺八がやりたい」という湧きあがる気持ちに突き動かされて、
「プロになりたいんです!」と門を叩きました。
浅野
尺八という楽器の魅力は何でしょうか?
黒田
それは語り尽くせませんが…人の声に近い、歌うように吹けるところでしょうか。
浅野
尺八奏者として辛いこと、苦しいことは何でしょうか。
黒田
うーん、それが、辛いと思ったことがないんです。
技術的に難しいことに取り組む時も辛いとは思いません。
まだまだ今から一難、二難あるのでしょうが…
「辛さを知らない」ということが、今の自分の欠点だとも思います。
黒田 鈴尊
浅野
それでは、尺八奏者として嬉しいこと、楽しいことは何でしょうか?
黒田
尺八は吹いていて本当に気持ちの良い楽器です。生理的な快感と言えると思います。
僕にはピアノでは無理だった演奏者と聴いて下さる方との間での音楽の共有、
一体感を可能にしてくれる楽器です。
浅野
影響を受けた音楽家、尊敬する音楽家はいますか?
黒田
まず師である青木鈴慕、そして《ノヴェンバー・ステップス》を初演された横山勝也、
その師である海童道祖ですね。
浅野
「鈴尊」というお名前は、どのようにして決められたのですか。
黒田
最初は本名から始まり、準師範の免許をいただく時に「静鏡」という名前で活動させていただくことになりました。
この名前もとても気に入っていたのですが、師範に上がる時に師匠から「鈴」の一文字をいただき、後は試行錯誤の末、響きのよい「尊」という字を選びました。
浅野
今回の委嘱作品を作曲していただいた山本和智さんとは、
どのようにして知り合われたのでしょうか。
黒田
都が推進するアート事業「トーキョーワンダーサイト」です。
その中でも実験的な公演を行う「エクスペリメンタル・フェスティバル」で山本さんの琴と糸電話を組み合わせた作品「Depuis1975」を拝見しました。
これは音楽だけでなく視覚的にもインパクトがあり、「何て面白い作曲家なんだ。これは自分も作品を書いてもらいたい!」と強く思いました。
黒田 鈴尊
浅野
黒田さんと山本さん、とても仲が良いですよね。
黒田
いやいや、作曲家として大変尊敬しておりますし、演奏者と作曲家という一線は自分の中で守っていますよ!(「ホントかよ!?」というツッコミが横の山本さんから…笑)
浅野
黒田さんからご覧になって、山本和智という作曲家はどんな作曲家ですか?
黒田
これは、言葉で説明するのが難しいですね…。
言葉にならない感覚、脳の中の普段使わない部分をフル回転させてくれるような作曲家です。
宇宙を感じさせてくれるというか、地球も宇宙の一部ですが、そういう意味で自分も宇宙人なんだと感じさせてくれる作曲家ですね。
浅野
今回の委嘱作品「Roaming liquid」とはどのような作品でしょうか。
黒田
新しい価値観を提示してくれる作品です。
おそらく聴かれる方には初めての体験となるような響きだと思います。
それなのに全く奇をてらった感じがしない。「堂々とした未聴感」とでも呼ぶべき体験をさせてくれる作品です。
浅野
「Roaming liquid」に取り組むにあたって苦労する点、難しい点は何でしょうか?
黒田
それが…全く苦労を感じません。
本当に取り組んでいて楽しい作品です。先ほどもお答えしましたが、僕は尺八を吹いていて「辛い」と思ったことがありません。
高い音など技術的に難しいところは苦労しますが、それは音楽家として誰しもが取り組むことですし…。
僕は自分でも、もっと苦労したほうがいいと思いますね。こんな性格なので、周囲の人のほうが苦労しているようです(笑)
黒田 鈴尊
浅野
「Roaming liquid」の聴きどころは?
黒田
曲全体を通して感じられる山本さんの宇宙ですね!
浅野
これからどんな音楽家を目指したいですか?夢や目標はありますか?
黒田
尺八という日本の伝統的な楽器を使って、常に今生きている時代の音楽に取り組んでいきたいです。
もちろん古典にも真剣に取り組み、新しい音楽と古い音楽をリンクさせていければと思います。後は、やはり健康第一ですね!
浅野
それでは最後に、8月29日の演奏会を聴きに来てくださる方にメッセージをお願いします。
黒田
皆さんと「びっくり」を共有したいです。山本さんの創造する宇宙を一緒に遊泳しましょう!!
黒田 鈴尊

黒田さん、ありがとうございました!