ヴィオリスト 田中千尋 X 指揮者 浅野亮介

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Special Interview

浅野
ヴィオラはいつから始められたんですか?何かきっかけのようなものがあったんですか?
田中
ヴィオラを始めたのは大学に入学した時です。それまではヴァイオリンをやっていました。
ヴァイオリンで芸大を受けたのですが、ヴィオラコースで合格しました(笑)
浅野
オーディションの演奏を聴いた先生が、「田中さんはヴィオラのほうが合っている」と思ったんでしょうか?
田中
そうだといいな…と思っていますが、真相は分かりません(笑) ただ、始めてみると、ヴィオラにとても魅了されました。
浅野
ヴィオリストとしてプロを目指そうと思われたのは、何故ですか?
田中
一度は楽器をやめようと思ったんです。
高校3年生の時に一般大学を受験しようと楽器から離れた時期があったのですが、1~2ヶ月で楽器が弾けないことにとてもストレスを感じて楽器を再び手に取りました。
そこで「自分は楽器を弾くのが本当に好きなんだな」ということに気づいたんです。
それで、ずっと音楽と関わっていきたい、勉強を続けたい、という思いから、演奏家を目指すようになりました。
浅野
もしヴィオリストになっていなければ、どんな職業に就いていたと思いますか?
田中
整体師です。私自身、いつもとてもお世話になっていますし、人の支えになる仕事がしたいと思っています。
浅野
ヴィオラという楽器の魅力は何でしょうか?
田中
自分からどんどん主張するのではなく、ヴァイオリン奏者やチェロ奏者のアイディアを上手くミックスさせていく…
皆の支えとしての役割を演じることができるところだと思います。
浅野
影響を受けたり、尊敬する音楽家はいますか?
田中
いっぱいいますが…ヴァイオリニストのギル・シャハムは本当に素敵な音楽家です。
一度オーケストラとして共演したことがあるのですが、彼の音、立ち居振る舞い、言葉、全てが音楽的で、「この人のために音を出したい」と自然と感じさせられる魅力を持った人です。
ヴィオリストとしては、タベア・ツィンマーマンの音が本当に素晴らしいですね。
浅野
好きな作品はありますか?
田中
何故か1920年前後に作曲された作品を好きになることが多くて、今私が一番興味を持っているのはヒンデミットのヴィオラソナタ作品25- 4です。
田中千尋
浅野
アメリカには2年間の留学予定で、現在は一時帰国中とのことですが、アメリカのどこでお勉強されているのですか?
田中
オハイオ州のシンシナティ大学の音楽学部です。そこにいらっしゃる先生に師事したいと思い渡米しました。
浅野
渡米して、どのようなことが一番勉強になりましたか?
田中
私が勉強しているところには世界中からたくさんの演奏家の卵が集まってきています。
本当に様々な人がいる中で、皆、確固とした意見と主張を持っていて、
それらをぶつけ合いながら音楽を作って行く…という経験です。
浅野
アメリカ生活で一番印象に残っていることは、どのようなことでしょうか?
田中
マイナス20度以下の日が1週間続いたことですね。
一番ひどい日にシカゴに行かねばならず、交通機関が動かなくなって帰れなくなったことです。
その日は急遽、ホテルを取って泊まりました。
音楽的な体験で言えば、タカーチ弦楽四重奏団の演奏を聴いたことです。
「音楽が生きている!」ということを心の底から実感できた演奏会でした。
浅野
ウォルトンのヴィオラ協奏曲は、いつ知りましたか?
田中
大学に入り、ヴィオラを始めてからです。試験やオーディションの曲として、よく取り上げられました
浅野
この作品の魅力は、どういうところにあるでしょうか?
田中
オーケストラが伴奏というわけではなく、協奏曲というよりは管弦楽曲に近い性格を持っているところです。 オーケストラが大きな枠を作って、その中に入っていけること、全楽章を通して一貫したストーリー性があることです。
どのようなストーリーを思い描くかは演奏者や聴かれる方それぞれだと思いますが、私はおとぎ話のようなイメージを持っています。
オーケストラが作る大きな音楽の物語の中で、私は主人公になったつもりで、たくさんの登場人物…フルートやオーボエ…トランペットやホルン…様々な楽器の奏者の方が演じて下さるキャラクター達と出会っていく…といった感じです。
浅野
この作品に取り組むにあたり、一番難しいことは何でしょうか?
田中
ウォルトンの世界観に入っていくこと、全曲を通してイメージを作り上げていくことです。
浅野
今回は田中さんがご帰国されるまで、弟の亮伍くんがソロの代役を務めてくれました。お姉さんから見て、亮伍くんはどんな弟さんですか?
田中
要領がよくて、すごく羨ましいです。とっても可愛いですけど(笑)
浅野
姉弟で思い出に残っているエピソードなどはありますか?
田中
そうですね…私が高校生、亮伍が中学生の時にモーツァルトのデュオを発表会で演奏したことがあります。
その時は私がヴァイオリン、亮伍がヴィオラでしたが、私が2小節くらい、暗譜したはずの楽譜を忘れてしまって、音が無くなりそうになったんです。
その時、咄嗟に亮伍がその2小節を代わりに弾いてくれました。ホントに瞬時に私が楽譜を忘れたことを察知して、即興で2小節を代わりに弾いてくれたんです。
まるで何事も無かったかのように演奏し終わりましたが、後で「お姉ちゃん!あそこ!!」って怒られました…(笑)
その時のことは、今でも感謝しています。
田中千尋
浅野
5月24日の演奏会を聴きに来て下さる方に、メッセージをお願いします。
田中
ウォルトンという素晴らしい作品をオーケストラの皆さんと演奏できること、皆さんと私のアンサンブルを是非楽しんでいただきたいと思います!

※田中さんの弟の亮伍くんは2014年第19回演奏会でのブラームスの協奏曲を弾いてくれました。

田中さん、ありがとうございました!

作曲家の旭井翔一さんのインタビュー記事はこちら